単館としては記録的な大ヒットをした、奇才カラックスの鮮烈な愛の映画。 パリの中央にあるポンヌフ橋を実物と寸分違わずセットで再現して、幾度なく資金難による撮影中断を余儀なくされた大作でもある。 天涯孤独の大道芸人の青年アレックスは彼が暮らす、パリで最も古く美しいポンヌフ橋で、初恋の痛手と不治の眼病で絶望的な放浪を始めた空軍大佐の娘ミシェルと出会い、革命200年祭に町が沸く中、互いの孤独を確かめ合うように激しい恋を貪る。 ところが、両親の捜索願いで眼の治療法の発見を知ったミシェルは突然彼の元を離れる。しかし、視力を回復しても、熱愛を自ら葬った彼女の心は虚ろである。 放火して服役中のアレックスを訪ね、クリスマスの晩の再会を約す。 雪降りしきる当夜、しかと抱き合う二人だが、ミシェルの些細な言葉に傷ついたアレックスは凍りつくセーヌに彼女を道連れに飛び込んでしまう。 明らかにJ・ヴィゴの「アタラント号」に触発されて作られた現代の愛の神話で、みずみずしいシーンが幾つもあるにも関わらず、全体に大仰で空疎な印象は免れない。 “ルポルタージュのように素早く撮影したい”と言う、最初の監督の意図が実現していたら素晴らしい映画になっていたろう。 若き巨匠が完全に作品をコントロールできることに酔ってしまったとしか思えない。